2014年05月13日

第9回:「囲碁」とアクティブエイジング


マンガ『ヒカルの碁』のおかげで、囲碁が「おじいちゃんのゲーム」というイメージはだいぶ払拭されたように思います。

とはいえ、まだまだ、囲碁と聞いて高齢者が打っている姿を思い浮かべる方は多いことでしょう。現実にも、高齢の囲碁ファンはおおぜいいらっしゃいます。



■「囲碁」でアクティブエイジング!

では、「なぜ 高齢者は囲碁が好き なのか」ということを考えたことはあるでしょうか?

「高齢者は、時間がたくさんあるから」とか、「昔覚えたから」といった理由がぼんやり頭に浮かばれたかもしれません。もちろん、そういうこともあるでしょう。

でも一番大きな理由は、「囲碁が 何歳になっても強くなれるゲーム だから」ではないかと思います。

体力が落ち、目も耳も悪くなり……という気落ちしそうな日々の中で、「一年前より強くなった」と自覚できるものがある。

自分の子供や孫ぐらいの年齢の相手とも対等に戦い、楽しくも興奮した時間を持つことができる。しかも勝つことだってできる。喜びだけではなく自信にもつながり、そして何より、向上心 を持ち続けられることが、高齢者をひきつけてやまない囲碁の奥深い魅力なのです。

プロの世界では、中国・韓国の影響を受け、囲碁の内容が変化しつつあります。

極論すると、「 若い脳 が勝つ」内容になっているのかもしれません。

小学校にも行かずに囲碁道場で徹底した英才教育を受ける中国・韓国選手の強さは圧倒的で、追い抜かれ、水をあけられ続けた日本ですが、数年前から世界で負けたくないという意識が高まり、勉強法が改善され若手が台頭してきました。

今年に入り、ビッグニュースが2つ。
まず、一力遼さんが、3月に史上最年少記録の16歳9ヶ月で 棋聖戦リーグ入りを果たしました。
井山裕太さんの17歳10ヶ月を塗り替える大記録です。

4月には、20歳の伊田篤史さんが 本因坊戦リーグ1年目で大活躍し、挑戦者の椅子を勝ちとりました。

20歳での挑戦者は、井山さんに次いで 7大タイトル、史上2位の若さという快挙。5月14日から始まる井山本因坊との七番勝負に勝つと、史上最年少の本因坊が誕生することになります。ちなみに、伊田さんは「『ヒカ碁』を見て碁を始めた」そうです。

若手の台頭に興奮して、つい話がそれました。
でも、どんな競技でも、幼少から鍛え上げれば強くなるのは、まあ、当たり前といえば当たり前の話。

やはり、驚かなくてはいけないのは、なぜ囲碁は何歳になっても強くなることができ、それ故、高齢者が強いのか、という点だと思います。

「高齢者が強い」と聞いても、「それほどでもなかろう」とぼんやり思われたかもしれません。それが違うのです。

どのぐらい強いかというと、例えば、以前にもご紹介したことのあるプロ棋士の杉内雅男九段は、大正9年生まれ。プロ生活は 70 余年にわたられます。今なお現役で活躍され、今も、孫かひ孫ほど年の離れた棋士たちと互角、あるいはそれ以上の戦績を残されています。

アマチュアの世界でも、2011年に平田博則さんが、「世界アマチュア囲碁選手権」の日本代表選手に、84歳 で選ばれました。
20代、30代の若者を次々となぎ倒して、です。

これはもう、人間の脳の神秘といわざるを得ません。
その神秘を引き出すという意味で、囲碁は 医学 の分野でも注目されはじめています。

囲碁を打つときに、人間の脳のどの部分が使われるのか。といった研究が何件か発表されてきました。

最近では、東北大学の川島隆太郎教授と日本棋院の共同研究「囲碁と脳に関する研究」が注目されました。

小学生を対象にしたこの研究では、囲碁が 認知機能(思考力、短期記憶力、総合的な作業力)を向上させるという結果を得ています。



■医療にも役立つ「囲碁」

さて、囲碁は認知症の予防にもつながる、ということは以前から言われていますが、この研究に本格的に取り組もうとしている方に、今回お会いして取材してまいりました。

東京都立神経病院の脳神経内科医で、東京都健康長寿医療センター研究所の協力研究員でもある飯塚あいさん

「考えることが好きで、人間の脳に興味があります」と可愛い目を輝かせ、「好きなアーチストはFear and Loathing in LasVegasとマキシマムザホルモン。ハードロックを聴きながら勉強すると、はかどるんです」と笑う26歳です。

飯塚さんは、中学1年で囲碁を始め、1年後にはなんと 院生(プロ養成機関)に。

「院生には入ったのですが一番下のクラスから上がれずプロになることはあきらめ、高校1年の夏に辞めました。でも囲碁はずっと好きです。嫌いにならずに本当によかったと思っています」。

その後、医師を目指すことになったきっかけは、「家族で『白い巨塔』を見て(笑)」だとか。ちなみに、何度もドラマ化されていますが、主演が唐沢寿明さんの、です。さらにちなみに、私はテレビを見ない家に育ったのですが、『白い巨塔』と言えば田宮二郎でしょう、という世代です。...話がそれました。

飯塚さんは、お休みの日も急患があれば呼び出されるという多忙な中、囲碁の普及にも取り組んでおり、アマチュア最高峰の大会の一つ「全日本アマチュア本因坊戦」で優勝経験もある村上深さん、プロ棋士の大橋拓文六段らが立ち上げている「日本社会人囲碁協会」のメンバーでもあります。

「このグループは、囲碁を何がしかの手段としてとらえて、世の中のために役立てる、ということをコンセプトにしています。地域貢献のチーム、アプリをつくるITのチームなどがあり、私は医療チームです」

そして「医療チーム」は今年、本格的に始動しました。
3月には第1回健康長寿囲碁祭りを開催し、研究資料を展示したり、高齢者の囲碁入門教室や指導碁などを行って大盛況。今後も半年に1回のペースで開催の予定だそうです。


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第一回健康長寿囲碁まつり(撮影:服部俊夫)

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囲碁と医療の展示資料より(作成:飯塚あい)


上の資料にもあるように、囲碁を打っているときは、脳のいろいろな部分を使うことがわかってきています。20代がピークと言われる「計算力」「記憶力」も、もちろん使うのですが、それだけでは囲碁を打てないわけですね。

そのあたりに、高齢者が強い理由が隠されているのでしょう。
飯塚さんが「脳の活性化に必ず効果がある」と考えるのも、この囲碁の特性ゆえです。

飯塚さんはこれから、高齢者を対象に「囲碁を知らない人に囲碁を教えることで 認知機能 がどう活性化するか」という研究や、「認知症で囲碁を打てる方を対象に、症状の進み具合」の研究などを具体的にスタートさせる予定。

「囲碁は認知症の予防や進行の抑制につながると、私は信じていて、早く証明したいです。証明できなかったとしても、囲碁が高齢者の社会参加につながり、生きがいになることだけは確か。囲碁を通じて、入院している患者さんや、外出せず元気がなくなってしまった高齢者の方には生きる気力を与え、元気がなくなりかけている方には元気を取り戻してもらい、元気な方には元気を保ってもらいたいというのが私の理想です」

医療の現場に囲碁が取り入れられる日は、案外近いかもしれません。


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飯塚あいさん(右)と大橋拓文六段(左)

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日本社会人囲碁協会のメンバー


*「七大タイトル」と「リーグ」について

七大タイトルとは、プロの公式棋戦の中でも優勝賞金が高く由緒ある「棋聖」「名人」「本因坊」「王座」「天元」「碁聖」「十段」(優勝賞金の高い順)のことです。この内、「棋聖」「名人」「本因坊」は三大タイトルと呼ばれています。

七大タイトルに共通する特徴は、男女、段位、所属に関係なく、全棋士が予選に参加すること。そして、タイトルホルダーは翌年の予選には参加せず、一年かけて勝ち上がったたった一人の挑戦者とタイトルマッチを戦うこと。

タイトルマッチは、三大タイトルが七番勝負(先に4勝した方が勝ち)で、一局を二日かけて行います。残りの四棋戦のタイトルマッチは五番勝負(先に3勝した方が勝ち)です。

極端なことを言えば、棋聖というタイトルを一つ持っていれば、残りの全ての対局に負けても、1年でたった4局、棋聖戦七番勝負で4勝すれば4500万円の賞金を手中にできるわけです。

挑戦者の決め方は、各棋戦で少しずつ異なるのですが、大きくとらえれば「トーナメント戦」です。

三大タイトルだけが、トーナメント戦を勝ち上がった最強棋士たち(現在、棋聖戦は12名、名人戦は9名、本因坊戦8名)が、最後に総当たり戦を行います(棋聖戦はA、Bリーグに分かれて総当たり戦の後に決勝戦)。この総当たり戦が「リーグ」です。

棋聖戦の場合は、毎年リーグから4名が陥落。そのあいたリーグ4席をかけて、全棋士が予選を戦うわけです。というわけで、「リーグ入り」は一流棋士の証とされ、棋士のほとんどは、まず「リーグ入り」を目標とするようです。


※棋聖戦については第8回の<「囲碁」の対局現場〜棋聖戦七番勝負〜>もぜひご覧ください!


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2014年03月03日

第8回:「囲碁」の対局現場 〜棋聖戦七番勝負〜


ただ今、プロの囲碁界では、棋聖戦(読売新聞主催)のタイトルマッチが行われています。

優勝賞金4500万円は囲碁界最高。

棋聖位を獲ると棋士序列も1位

文字どおり最高峰の対局舞台です。

棋聖は井山裕太六冠、挑戦者は山下敬吾九段

タイトルマッチは七番勝負(先に4勝した方が勝ち)で、私は2月20日、21日に打たれた第4局の観戦記を担当させていただきました。
今回は、七番勝負の現場をご紹介しようと思います。



■最高の舞台「棋聖戦」

今年は、第1局がスペインで打たれ話題を集めました。
井山棋聖が3連勝し、そのままストレート勝ちで防衛してしまう勢いでしたが、第4局の対局地は山下九段の地元、北海道。
ファンの応援にも勇気づけられたのでしょう、1勝を返しました。

ちなみに、2月26、27日の第5局も山下九段が勝ち、3月2日現在は、井山六冠の3勝2敗という状況です。


はじめに「持ち時間」のお話を。

棋聖戦、名人戦(朝日新聞主催)、本因坊戦(毎日新聞主催)が三大タイトルと呼ばれます。

2日かけて対局するのは、世界中でこの3つのタイトル戦だけ。

持ち時間が一人8時間という対局も、世界中で三大タイトルの他にありません。

昔は、のんびりしていましたので、「持ち時間」などありませんでした。
江戸時代の対局は、「一日お休み」したりして、何日もかけて1局の碁を打っていたようです。

持ち時間を設定するようになってからも、昭和8年には、持ち時間一人24時間、13回打ちかけて、4ヵ月かけて打った記念対局もありましたし、昭和14年から始まった有名な「十番碁」は、一人13時間で3日かけたそうです。

こうした歴史を踏襲し、現在の「一人8時間。2日制」が整ったのでしょう。
中国や韓国では3時間、1時間が主流になりつつあると聞きます。

世界戦(国際戦)もほとんどが3時間以内ですので、これに慣れる意味もあって、日本の棋戦ものきなみ持ち時間を短縮する流れになっています。

その中での「8時間」には、「単に勝ち負けを競うのではなく、内容が濃いものを目指す」という日本の美学が込められているように思います。

中国や韓国のトップ棋士から「日本の三大タイトル戦を打ってみたい」という声を耳にすると、少し誇らしい気分になります。

 *

さて、棋聖戦第4局です。

棋士によって、また対局地によっては、対局日の前々日に現地入りして、ゆっくり体調を整えることもありますが、今回は全員、前日に北海道、帯広市に到着しました。

立ち合い、新聞解説、記録、現地大盤解説などの役を担った対局者以外の棋士たち、新聞社の方、雑誌記者、ネット記者、日本棋院の職員、NHKスタッフなどなど、総勢20名を越える大所帯です。

少し以前の棋士は、ピリピリした空気をまとっていらっしゃいました。
対局者どおしの顔を合わせないように、移動の電車の車両を変えるなどの配慮もしていたほど。

でも、今30代の世代のあたりから、逆に周囲の関係者に気を配ってくださるような棋士が増えてきました。
時代の流れを感じます。

前日のスケジュールは、2つ。
対局室の下見と地元ファンを集めた前夜祭です。

下見.jpg

写真は下見の儀式
向かって右が井山棋聖、左が山下挑戦者。
正面中央は立ち合いの宮沢吾朗九段(さかなクンのお父様です)、左は記録係の鈴木伸二四段、右が藤村洋輔初段。

碁盤や碁石に問題はないか、対局者にチェックしてもらうのですね。
地元の方から高価な碁盤・碁石をお借りすることもあり、まれに碁石が高価すぎて(高価な碁石はふっくらと厚みがあります)「持ちにくいので別の石にしてください」という要望が出ることがありますが、今回は、日本棋院所有のタイトル戦専用の盤石。儀式は1分ほどで終了しました(笑)。

今回同行した棋士はほとんどが北海道出身。
ということもあり、前夜祭会場に集まった方たちは終始笑顔。
地元の山下九段はもちろん、井山六冠もたちまちファンに囲まれて、何枚も記念撮影をしていました。

ちなみに、前夜祭は、いよいよ勝負が煮詰まる第6局、第7局では行われないことがほとんど。棋士たちに気づかいをさせない配慮です。

今回は山下九段はカド番に追い詰められていたわけですが、「北海道での対局を楽しみにしていいたのですが、まさかこんなに苦しい状況で迎えることになるとは想定していませんでした。気が重かったのですが、こうして地元の皆さまに暖かく迎えていただいて、明日から気持ちよく対局に臨めます。井山さんは人間がとてもできているので、地元で僕をいじめるようなことはしないと思います」とユーモアを交えたあいさつで会場を沸かせていました。

前夜祭会場に1時間ほどとどまった後、対局者は退室し、分かれてそれぞれ関係者と夕食。私は井山棋聖とご一緒させていただきました。

六冠を獲ったことで、この1年「情熱大陸」や「プロフェッショナル」などのテレビ番組にも取り上げられた井山棋聖。「少し疲れたので、今年は取材に応じるのを控えようかなと思ってます」などなどの話をにこやかに話されていました。



■対局開始

翌朝9時。
いよいよ対局開始です。
先に打つのは黒で、第4局は井山棋聖が黒。

黒の1手目、白の2手目、黒の3手目……と数えていくわけですが、16手目で39分の長考(長く考えること)。この白の手を発端に難解な戦いに突入すると、21手目では46分、24手目で50分、29手目で55分と、お互いに時間を存分に使って考え、盤面はほとんど動かず。

午後4時50分に、山下九段が「次の手を封じます」と宣言して一日目が終了。
結局一日かけて30手しか進みませんでした。
 
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(左)控室で検討する棋士たち (右)控室隣の記者席


「次の手を封じます」について補足しましょう。

2日制の対局では、1日目の最後の一手を、盤上ではなく、棋譜(対局の手順を紙に記録したもの)に書き込みます。もちろん、誰にも見せないように、です。

次の手が書き込まれた棋譜は、折りたたまれて封筒に入れられ、立ち合い人に手渡されます。

これを立ち合い人が一晩保管し(実際には宿の金庫などに預けるのですが)、翌朝、立ち合い人が封を開けて棋譜に書き込まれた次の手を発表するという流れ。

この一手を「封じ手」と呼んでいます。

「封じ手」を巡っての駆け引きは、2日制ならではの見所の一つ、対局者にとっては気を使うところです。

あまりにも難しい場面で封じると、一晩考えているうちにもっといい手を見つけてしまい後悔する可能性もあります。

反対に、あまりにもわかりやすい場面で封じると、相手にその次の手を一晩じっくり考えられてしまいます。

また、棋聖戦では、午後5時半の時点で手番の人が次の手を必ず封じなければいけない決まりですが、4時半を過ぎたらいつ封じてもよいという決まりもあり、その場合は、5時半までの時間が折半されます。(例えば4時半に封じた場合は、5時半までの1時間を折半。両対局者が30分ずつ使ったことに)

それゆえ、自分の持ち時間も減るわけですが、相手の持ち時間を少しでも減らしたい場合に早めに封じるという作戦も立てられるわけです。

 *

かつて、坂田栄男23世本因坊藤沢秀行名誉棋聖という歴史に残る大棋士二人の名人戦では、封じ手を巡る有名な攻防がありました。

お二人は、犬猿の仲でも有名でした。

坂田先生は封じたくないので、打つ手は決まっていながら打たずにいて、「定刻」のぎりぎり直前に、相手を考えさせる難しい手を打ち下ろしました。

「定刻」になったら次の手を封じなければなりません。

秀行先生は「そうはさせじ」とすぐに次の手を打ちました。

すると、坂田先生がすかさずまた次の手を打ったのです。

秀行先生が「頭にきた」瞬間に「定刻」。

頭にカッカと血がのぼった状態で次の手を封じることになり、これが、「敗着」になってしまったようです。
坂田先生は後年「幼いことをした」と振り返っておられます。

最近では、残念ながら(?)、こんな光景が見られることは滅多にありません。

今回も、「封じるタイミングとしては、味がよい」との評判でした。

 *

打ちかけの夜も、両対局者は分かれて、それぞれ夕食。
この日は山下九段と同席させていただきました。

打ちかけの日の夕食の席は、少し気を使います。
一日目を終えた時点で明らかに劣勢の側の棋士と同席する場合は特に、です。

かつて、趙治勲25世本因坊は、ご本人は意識していないのでしょうが、頭の中の碁盤をじっと見つめて集中している感じ。

料理に目を向けることもなく、ずっと黙り込んでいるのです。
30分ほど経って、ようやくこちらの世界に下りてきてくださり、ホッとしたものです。

でも、今回、山下九段は大丈夫でした。
「依田先生の息子さんは、小6だけど、マイ包丁を持っているそうだ」などという話をしながら、明るく過ごしました。

ちなみに、井山六冠も山下九段も、アルコールビールは一滴も飲みませんでした。
昔と比べてばかりですが、最近のトップ棋士はお酒を飲まない人が多いです。

 *

二日目は、両者7時間59分使い、残り1分の「秒読み」をされ続けながら(59秒以内に打てば、切り捨てで0分消費という扱いになります)、午後8時7分までの熱戦となりました。

結果は山下九段の半目勝ち
最少差での決着でした。
(興味のある方はぜひ読売新聞朝刊の囲碁欄をご覧ください!)

検討1.2.jpg

写真左は終局後の検討

終局した後は、お互いの陣地を数えやすいように、石を動かして整えます。
ですから、終局したときとは全く違う形になります。
その状態で、両対局者が、盤上を指しながら、「この手がこうでしたね」と感想を言い合うのはよくある光景。でも素人にはどの手がどうなのか、サッパリわからなかったりします。

少しして、対局場面を一部再現しながらの検討が始まりました(写真右)。
これなら、少しは話についていけます。

一勝を返した山下九段は嬉しそうでした。
打ち上げの後は早々と自室に戻り、次局に備えます。

井山六冠は、毎局そうなのですが、控室で若手棋士たちと検討。
夜中の1時半までexclamation 
若さと囲碁への真摯な探究心に改めて感動しました。

翌日は、両対局者は早朝に帰宅。
その他の棋士たちは「棋聖戦帯広対局記念イベント」に向かいました。

アマチュア棋聖戦の他、指導対局、親子入門教室の企画に、地元ファンが集まり、明るく賑やかなひとときでした。

 *

ここからは余談です。
イベントが終わり、飛行機飛行機の時間まで1時間ほど自由時間となりました。

そこで向かったのが、ばんえい競馬

農耕馬による競馬で、ウィキペディアによると「日本国内の公営競技(地方競馬)としては北海道帯広市が主催する「ばんえい競馬(ばんえい十勝)」のみが行われており、世界的にみても唯一となる形態の競馬」とあります。

馬.JPG

ばんえい競馬とはいえ、生まれて初めての競馬場でした晴れ
同行したのは、宮沢吾朗九段とやはり競馬経験ゼロの加藤充志九段と新聞社のO氏です。

O氏 「お客さんはスタートラインに立って馬と一緒に走るんですよ」
加藤 「え? どういうことですか?」
O氏 「そのぐらい遅いんだよ(笑)」

わけもわからず連れてこられた加藤九段は、サラブレッドたちが走る普通の競馬を思っていたようです。我らの目の前で、急に走るのをやめて休憩してしまった馬を唖然と見つめ、「…何これ…」。
そして、じわじわと笑顔が広がると「俄然やる気がでてきた!」。

宮沢 「自分の名前(※ゴロー)が入った馬にしようと思ったけど直前に
    やめちゃったら、5番と6番の「ゴロー」がきちゃったよ!」
加藤 「わはははは」
宮沢 「どこで止まるかわかんないんだよ。2つ山を越えたからそのまま
    いくのかと思ったら、そこでも止まっちゃうんだもん」
加藤 「わはははは」

30分に1度のレースを2レース興じて、飛行場へと向かったのでした。

 *

さて、演劇公演も迫っております。

3月27日初日ぴかぴか(新しい)です。

これから怒涛の日々。
というわけで、勝手ながら、次回は1回こちらのブログをお休みさせていただこうと思います。

↓↓↓ 公演、お時間ありましたら、ぜひお越しください! ↓↓↓

かもねぎショット公演 
高見亮子新作『エッシャーの家』ご予約受付中!


3月27日(木)〜31日(月)@下北沢 小劇場楽園

チケット予約専用アドレス
kamonegishot_ticket@yahoo.co.jp
※公演詳細は かもねぎブログ
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2014年01月31日

第7回:「囲碁」と学校教育


井山裕太六冠の、「七冠達成」という夢の挑戦が、今年は実現しないことになりました。

唯一手にしていない「十段」戦も、挑戦者まであと1勝と迫っていたのですが、挑戦者決定戦で高尾紳路九段に敗れてしまったのです。

平成四天王の一人、高尾九段がまだまだ明け渡すわけにはいかない、と意地を見せられたのでしょう。

気合を入れ直されたのか、井山さん、今年1月から始まっている棋聖戦の七番勝負で二連勝。

六冠をキープし続けるのか、ここでもまた四天王の一人、山下敬吾九段が意地を見せて、棋聖位を奪還するのか、井山さんを巡って、目の離せない囲碁界です。

私は、棋聖戦七番勝負の第四局を担当します。
来月は、この模様をお伝えしたいと思っております。



■ 囲碁と教育現場
──小学校の「囲碁の時間」

先日、小学校を対象にした「学校教育と囲碁」を考える研修会を見学させていただきました。

こちらのブログの第一回でも「囲碁と教育」をテーマにしたのですが、小学校での囲碁の授業については具体的にほとんど触れなかったので、今回もう一度書いてみようと思います。
 
さて、マンガ『ヒカルの碁』をご存じの方はおおぜいいらっしゃることでしょう。子供だけでなく大人もハマる傑作 本

当時、囲碁を全く知らない私の友人も「続きを読みたくて、会社から走って帰った」とか、「1巻読むのにだいたい1時間。これを読むと明日がつらい、ここでやめなきゃ、とわかっていながら止まらなくなっちゃうんだよね」という声がいろいろ聞こえてきました。

もちろん子供たちにも大人気で、「囲碁をはじめたい!」という子供が爆発的に増えました。

その影響力はかなりのもので、事実、ここ数年の間に、マンガやアニメで『ヒカルの碁』を見て囲碁をはじめた子供が何人もプロ棋士になっています。

というか、新しくプロになった若者の9割以上が、「『ヒカ碁』がきっかけ」と話し、半数以上が「家族で囲碁を打つ人はいない」そう。

日本全国どこにでも、囲碁が強くなる子供は潜在している、ということがわかったのは、嬉しい大収穫でした。

ところが、反対に、残念なこともありました。
「囲碁をはじめたい!」子供が爆発的に増えたために、各地に「にわか子供囲碁教室」が開設されたわけですが、多くが失敗に終わった、ということ。

つまり、教える側の態勢が整わなかったのです。

私も一度、都内公民館の囲碁教室をのぞいたことがあります。

「こんなに大勢集まってるんだ!」と喜んだのもつかの間、ご近所のアマチュアの方でしょう老先生の興味の持てない講義が延々と続いてゆき、だんだんと子供たちの顔がつまらなそうになってゆき、そのことに先生が気づいておらず……「ああ、もうこの子たちは、二度とこの教室には来ない」と確信するに至って、がっかりと寂しい思いをしたものです。

囲碁は、入門のあたりが実は最もとっつきにくく、教わる人にとってはいきなり大きな壁にぶつかることになります。それは同時に、教える人にとっても最も大きな壁だということでしょう。

手前みそで恐縮ですが、あのとき『ヒカルの囲碁入門』があれば……と残念でなりません。

子供たちが囲碁を始めたいと自ら公民館の囲碁教室に足を運ぶ。その自発性はかなりのものです。

それほどのやる気のある子供たちならば、よい教材が手元にありさえすれば、大人が放っておいても勝手に強くなっていくというもの。

私自身、友人のお子さんに実験(?)したことがあるのですが、まず『ヒカルの碁』を貸してあげ、その後に『ヒカルの囲碁入門』を渡す。
これが、やる気のある子供が碁を打てるようになる、最も簡単で効率のよい方法かもしれません。

ちなみに私の友人のお子さんは、当時小学校4年生でしたが、1年ほどで初段になってしまいました。

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『ヒカルの囲碁入門』(石倉昇・著/高見亮子・編集協力)


実際に子供たちと触れ合う教育現場でも、「このままでは、だめだ」と真剣に指導法を考え続けているプロ棋士がいます。

水間俊文七段もその一人。
先日の研修会では、水間流指導法に「これならいける」と感動させられました。

小学校での「囲碁の時間」とは、具体的にはどんなものなのでしょうか。

日本棋院では、小学校に向けて3つのアプローチをしているといいます。

一つ目はクラブ活動での指導。
「囲碁部」に教えに行く、というものです。

二つ目は放課後の活動。
品川区などでは近年、学童保育(放課後児童クラブ)のために小学校の体育館などを解放しているそうです。
その中に囲碁コーナーを設けるというものです。

そして三つ目が、小学校の授業「総合的な学習の時間」(※今、小学校にこんな科目があることを、最近まで知りませんでした。3年〜6年生対象で、週に2時間あるそうです)内での囲碁指導です。


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日本棋院の学校用ガイドブック


この「総合的な学習の時間」を補足すると、目標は、「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する能力や資質。問題の解決や探究活動に主体的・創造的・協同的に取り組む態度」だそうです。

研修会にご出席された今野正保氏(小学校の校長先生を退役され、今も囲碁指導にあたっておられる方です)からは、興味深いお話を聞くことができました。

「この時間の『目標』には『自ら』の文字が何度出てくるかわかりません。それほど、今の子供たちは、自ら何かをするという経験がないのです。口をあければ食べ物が放り込まれる、という環境で育っていますから(笑)」。

そして、この「目標」に囲碁がいかにふさわしいか、さらに、相手の気持ちを思いやれるようになることが、囲碁の素晴らしさだとのこと。

「今の子供は、優しい言葉をかければ、それで親切をしたと思ってしまう。そんな言葉は今はかけてほしくない、という相手の気持ちまでは推しはかれないのです。でも、囲碁を打てば、相手が今何を考え、どうしたいと思っているのか、ということがわかる子供になります」



■「最後まで打つ」
──子供たちは「気づき」から強くなる

そこで、もう一度、指導法が問題になってきます。

一つ目のクラブ活動、二つ目の放課後の活動は、元々囲碁に興味のある子供が対象ですが、問題は三つ目の「授業」

興味がない子供もいれば、さらに「囲碁なんてやりたくない」という子供もいるでしょう。

そういう子供たちに、どのように囲碁の楽しさを知ってもらうか。
これは指導者には大変な難問に思えます。

ここで、前述の水間七段のお考えを。

「これまでは、百人いたら十人ぐらい強くなる子がいればよい、という指導法でした。でも僕は、百人いたら百人全員に囲碁が打てるようになってほしい。そのためには、とにかくわかりやすくわかりやすく伝えることです」。

子供たちが何がわからないのか、どうすればわかってもらえるのか、ということを書きためた水間ノートは、実に何百ページにも渡ります。
その熱心さと細やかさには本当に驚かされました。

そして、「そうか! なるほどexclamation」と文字どおり目目から鱗が落ちるようなわかりやすい画期的な指導法をいくつも提案・実践されているのです。

もちろん、その効果は表れており、中央区の小学校などで、子供たち全員が囲碁を楽しんでいるといいます。

今野氏からも、水間流の素晴らしさについてお話がありました。
少し専門的な話になってしまうのですが……
しかも、山ほどあるのですが……

一例としては、囲碁では「終局」(対局の終わり)が難しいのですね。

どうなったら終わりなのか、これを正確に理解できれば、10級ぐらいの棋力はあるといってもよいでしょう。

ですから、これまでの囲碁入門書などでは「終局は、強くなれば自然にわかってきます」とか「まわりに強い人がいたら、終局のあたりは見てもらいましょう」などというふうにお茶をにごした書き方になっています。

もちろん、これは間違いではなく、本当に、終局は自然にわかってくるものなのですが、教育の現場では、全員の対局の終局を見て回るだけでも大変です。

水間流は、「もう打つところがないと思ったらパスをして、続けて、もう一人もパスをしたら終局」ということだけを伝えて、子供たち同士で終わりにする、というもの。

強い人が見れば、「本当はまだ打つ場所がある」としても、反対に、「今終わりにするべきで、これ以上打つと自分が損をする一方」だとしても、口を出さず、子供たちが納得するように打たせるわけです。

大切なのは、「最後まで打つ」ことです。

この方法のよいところは、先生が近くにいなくても、子供たちだけで囲碁の対局を楽しめるようになること。

経験を積みながら、自分から「本当はまだ打つ場所がある」ことや「これ以上打つと損をする」ことに気づいていけること。

この「気づき」から強くなっていくこと、でしょう。

水間七段が何度も口にされる言葉は、囲碁以外の教育現場にも共通するような気がします。

「強い人は、とかく、正しい打ち方・きれいな打ち方を教えようとします。でも、それは、もっと強くなってからの話なんです」


水間七段から、入門したばかりの子供たち、少し強くなった子供たちの棋譜(対局を紙に記録したもの)を見せていただきました。

それはそのまま、囲碁というゲームが現代の形になるまでの歴史をなぞっているように思えました。

囲碁は「お互いに自分の『地』(陣地)を取り合う」ゲームで、結果として「『地』(陣地)が多い方が勝ち」になります。

入門したばかりの子供たちの対局は、女の子同士だと、争いもせずにお互いに仲良く陣地を分け合う結末になることが多いようです。

男の子同士だと、相手の陣地の中にどんどん入っていき、碁盤の上が碁石で埋め尽くされるような結末になるようです。

この男の子同士の対局は、人間が囲碁をはじめた頃の対局と重なるのではないでしょうか。

かつて、囲碁は、地(陣地)の多さではなく、碁盤に自分のをたくさん残した方が勝ちでした(中国ルールは基本的に今もこれです)。

相手の石を囲むと取れる(※「取る」とは、相手の石を盤上から取り上げること)、というルールがありますので、取られないようにしながら打たなくてはなりません。

やがて人間は、まず広く自分のエリアをつくり、その中に自分の石を埋めていけば、取られずにかつ自分の石をたくさん残せることに気づくようになりました。

すると、お互いにまずエリアをつくるようになっていく。

これが、後の(今の)「地」です。
そして、その中にいちいち石を埋めていくのも面倒なので、石の数ではなく、「地」を数えるようになったのですね。

囲碁では「地」の概念を理解するまでが、とても大変です。

歴史を振り返っても、おそらく何百年もかかったのですから。

そう考えると、子供たちが、「これ以上打つと損」ということに気づくまでの……地の概念を理解するまでの、ほんの数日か数週間ぐらいは、短いもの。
いくらでもゆっくり見守ってあげようという大らかな気持ちになれそうです。

指導者全員が、水間七段のような熱意と細やかさと優しさと忍耐をもって入門指導にあたれば、間違いなく子供たちは全員が囲碁を打てるようになると確信します。

問題は、全員が水間七段ではない、ということでしょうか。……いやいや、目から鱗の指導法を、ぜひ多くの方に取り入れていただき、真の意味での囲碁普及が浸透することを願っています。

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写真は、友人の囲碁インストラクター熊坂直子さん(「くまちゃん子ども囲碁教室」主宰)からお借りしました。囲碁を楽しんでいる子供たちの表情をご覧ください!



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posted by si at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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