2013年11月29日

第5回:「囲碁」とオリンピック


11月初旬に公演があり、ブログ更新、1か月お休みいただきました。

この約2カ月の間に、囲碁界では井山裕太さんが名人位を奪取して再び六冠に。
そして昨日、11月28日に「天元戦」の五番勝負を3−0のストレートで防衛。
夢の大記録「七冠」がまた見えてきました。

とはいえ、現在進行中の「王座戦」(五番勝負)を防衛し、新年からスタートする「棋聖戦」の七番勝負を防衛し、その間に「十段戦」の挑戦者に勝ち上がり、結城聡十段に勝つ、という長く険しい道のり。

100年に1人とも200年に1人とも日本囲碁界の「奇跡」とも言われる大天才の前人未到の挑戦を皆さんとともに見守りたいと思います。

さて、4年前とは大違いの大興奮のなか、2020年のオリンピック・パラリンピック東京招致が決定しました。

今回は「囲碁とオリンピック」というタイトルにしてみます。



・囲碁は「マインドスポーツ」

2008年、囲碁界では嬉しいビッグニュースがありました。
「囲碁がオリンピックに参加」というものです。

「え? なんのこと?」と思われる方が多いでしょう。
一般的にはほとんど知られていないかもしれません。

日本ではあまり馴染みがありませんが、世界には「マインドスポーツ」という概念があるようです。

体の運動能力ではなく知力を競うのが、「マインドスポーツ」。

国際オリンピック連盟が認定するスポーツ競技には、夏季・冬季オリンピックの正式種目となっている競技(フィジカルスポーツ)のほかに、ブリッジやチェス(マインドスポーツ)が含まれているのだそうです。

そして、実際に開催されたのです。
通称、頭脳オリンピック、正式には「第一回ワールドマインドスポーツゲームズ」は、2008年10月3日から18日の16日間、中国の北京市で行われました。

IMSA(国際マインドスポーツ協会)主催によるマインドスポーツの国際競技会。その記念すべき第1回大会でした。


大会会場風景2.jpg
「智力運動会」の文字が端的。ⓒ日本ペア碁協会


競技種目は、IMSA加盟の囲碁、ブリッジ、チェス、チェッカーと特別参加のシャンチー(中国将棋)の5競技35種目。

もう5年も前の話ですが、私もこの「頭脳オリンピック」に後半の10日間取材に行きました。懐かしがりながら少しだけ振り返ってみようと思います。

会場は、同じ年の8月のオリンピック、9月のパラリンピックでも使用された北京国際コンベンションセンターや国家会議センター。

建物が巨大で、方向音痴の私は、報道関係者用の部屋(ほとんどの時間は、そこでパソコンに向かっていました)から「覚えていられるだけ足を伸ばして、来た道を戻る」というやり方で会場内の探検に出かけましたが、ついぞチェスやチェッカーの競技場には辿りつけませんでした。


大会会場風景.jpg
「鳥の巣」の愛称で親しまれた北京国家体育場もよく見えました。ⓒ日本ペア碁協会


囲碁の種目は男女個人戦、男女団体戦とペア戦(男女がペアになって対局)。
60の国や地域から560人が参加しました。

さて、60か国と聞いて驚かれる方もあるかもしれません。
そうなのです。

囲碁 -GO- は今や世界のゲームといってもよいでしょう。


開会式風景2.jpg
開会式 ⓒ日本ペア碁協会


ヨーロッパでは、ドイツやオランダなど、江戸時代や明治時代に日本と行き来のあった国を中心に囲碁が盛んになったのではないかといわれています。

アメリカでは、日系人のほかに、ドイツから渡ってきたユダヤ系の物理学者が囲碁を広めたのではないか、というのがアメリカ出身のプロ棋士マイケル・レドモンド九段(1)の推測です。

その後、インターネットの普及にともない、飛躍的に世界に広まっていきました。

世界アマチュア選手権戦という大会は実に1979年から毎年開催されており(2003年のみSARS問題で中止になりました)、はじめは15か国の参加だったのですが、年々増えてゆき、今では70か国に届く勢いです。

開催地は日本か中国。
今年は仙台市で行われました。

インド代表の女性が囲碁の魅力を「ギブ・アンド・テイクのゲームであるところです」と語っていたのが印象的です。

独特の棋風から世界中にファンの多い武宮正樹九段(2)は、大会審判長をつとめる機会が多いのですが、「囲碁を打つ国には戦争がないんだよ。内戦が絶えない国の人は碁を打たないんだ。だから、みんな碁を打てばいいのにと思うよね」とよく話されています。



●「囲碁」でオリンピックへ!

話をオリンピックに戻しましょう。

日本勢は男女ともに団体戦で銅メダル。
全競技を通じても、メダルはこの2つでした。

結果はともあれ、143の国や地域から約3000人が参加した「智の祭典」が実現したことは画期的な出来事と興奮したものです。

ただ、第1回大会の成果は、中国政府と北京市の全面支援というバックアップ体制によるところが大きかったのでしょう、その後の運営には課題も多くあるようです。

第2回ワールドマインドスポーツゲームズは、2012年8月9日から23日にフランスのリールで開催されましたが、95の国や地域から2000人が参加、と規模は縮小されたもよう。

囲碁界もプロ棋士は参加しないことになり、また、中国と韓国からは参加者なし、と少し寂しい大会になりました。

日本の囲碁競技への参加者も、「六段以上の希望者」を募る形で渡航費も滞在費も自費だったために、男性5名、女性1名と小編成でした。

それでも、「ペア戦」で大澤摩耶さん・中曽根理樹さんペアが見事に金メダルぴかぴか(新しい)。大澤さんは個人戦でも銀メダルぴかぴか(新しい)を獲得する大活躍でした。


表彰式.jpg
表彰式 ⓒ日本ペア碁協会


大澤さんは「姉に行くといいよと薦められて。姉がそう言うなら、と」参加を決めたそうです(お姉さまはプロ棋士の大澤奈留美四段(3))。

「他に誰が来るかなぁと楽しみにしていたら、女性は私だけ(笑)。少し寂しかったですが、友人もおおぜいでき、よい時間を過ごせ参加して本当によかったです」と話されています。

「ペアを組んだ中曽根君とは現地で初めて会い、一回練習しただけでしたが、そのときに周囲から強いペアだと言われて『けっこういいのかな』とその気になれた」のが勝因だそうです。(大澤摩耶さんのブログもご覧下さい)


日本_アメリカ.jpg
ペア碁 日本-アメリカ戦 ⓒ日本ペア碁協会


第3回は、ブラジルでの開催が予定されています。

「頭脳オリンピック」という響きには魅力を感じますし、「マインドスポーツ」という言葉にも人の可能性が秘められているようで魅かれます。

まだスタートしたばかりですから、問題や課題が山積みでしょうが、一つ一つ模索しながら乗り越えて、とにかくこの大会が続いていってほしいと願っています。

あれほどオリンピックの東京招致に無関心だった日本人が、たった4年で変貌したことを思えば、頭脳オリンピックが世界の人々に認知され浸透し人気を博すことも夢ではないと期待しつつ。

2020年は東京開催でしょうか!? 
皆さんも今から碁を始めて、オリンピックを目指してはいかがでしょう!



位置情報棋士、一言紹介(プロフィールは日本棋院のHPをご覧ください!)

(1)マイケル・レドモンド九段
第2回「囲碁」とコンピュータ 参照。

(2)武宮正樹九段
「私が武宮さんに対してすぐ思うことは『一人で世界の碁を変えた』ことです」と評したのは王銘琬九段(第3回「囲碁」と演劇 参照)。
「まだプロ棋士になる前、小学生のときに、中学生だった武宮さんに打ってもらったことがあるんだけど、同じゲームをしていると思えなかった」と語ったのは石倉昇九段(第3回「囲碁」と演劇 参照)。
盤上に展開される独自の世界観は「宇宙流」と命名され、その一流の感性から、天才である棋士たちに「天才」と呼ばれる人。
「名人」「本因坊」をはじめとする数々の国内タイトル獲得の他、プロ棋士による初の世界選手権戦・富士通杯の第1回・第2回で優勝するなど全盛期は世界に君臨。碁盤を離れても・・・・・・バックギャモンの大会で優勝したこともあれば、スキー、テニス、ゴルフも玄人はだし。歌も抜群。最近は社交ダンスに夢中で毎日3時間のレッスンを欠かさない。還暦をすぎても若々しく陽気で、武宮九段のいる場所はいつも南国のよう。


(3)大澤奈留美四段
女流鶴聖というタイトルホルダーだったこともある実力者。
今日本の女流囲碁界をけん引する謝依旻女流名人・女流棋聖が台湾から来日したばかりのころ「一番の仲よし。本当のお姉さんのよう」と慕っていたのが印象的。最近はヨーロッパへの囲碁普及の旅にもでかけています。(来月、とある忘年会でご一緒することになっているので、ヨーロッパ囲碁事情など、詳しく伺ってきます!)


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