2013年08月02日

第2回:「囲碁」とコンピュータ


今回は「囲碁とコンピュータ」というテーマにしてみます。

最近、「スーパーコンピュータ」開発のニュースをよく耳にします。

コンピュータにも数字にもうとい私は、「1秒間に1京回の計算ができます」と聞いても、さっぱり実感が持てなかったのですが、最近、コンピュータに詳しいマイケル・レドモンド九段(1)(アメリカ出身のプロ棋士です)の例え話を聞いて、「どれほどコンピュータの性能が進歩したか」ということが、少しわかった気になりました。

レドモンド九段が子供の頃(40年ほど前です)、ご実家の一室は、物理学者のお父様の巨大コンピュータで埋め尽くされていたそうです。

「それと同じだけの機能を持つコンピュータが、今では片手のてのひらにのるサイズになったわけですからね」。

なるほど。
そして、「とりわけ、ここ20年の進歩には目をみはるものがある」のだそうです。

では、この目をみはる超高性能コンピュータが囲碁を打つとどうなるのでしょうか。


スーパーコンピュータ vs. 人間

ご存じの方はご存じのように、チェスは、1997年に、世界チャンピオンのカスパロフ氏が、IBM製のチェスコンピュータ「ディープブルー」に1勝2敗3引き分けで敗れました。

「ああ、人間がコンピュータに負けちゃったぁ」とかなりショックでしたが、「囲碁は大丈夫」と大船に乗っていました。

実際、囲碁のコンピュータソフトは「史上最強」と銘打たれた新商品が次々開発されても、その実力はといえば、アマチュア初段ぐらい。
明らかに伸び悩んでいたからです。

なぜ、コンピュータは囲碁が強くなれないのか(強くなれなかったのか)ということを、囲碁ファンは得々として語ったものです。

一つには(これは、さほど威張れることではないかもしれませんが)、単純に碁盤が広いから。

チェスや将棋は9マス×9マス=81マスが競技場となるのと比べて、囲碁は19路×19路=361の交点が舞台です。

最初に黒石を置いてもよい場所が361カ所あり、二手目に白石を置いてもよい場所が360カ所、三手目の黒石が359カ所……この枝別れの総数を361×360×359×……と計算していくと、6手目にして2千兆を越え、7手目になると自宅の電卓には数字が現われません。

その中から最善の一手を選ぶことは、さすがにコンピュータでも無理だろう! と私も思いました。

igo19.JPG 19路盤

igo9.jpg 9路盤


また、一つには、囲碁では「感じる」ことが次の手を決める要因になるためです。

例えば、「自分の石が弱いな」と感じたら守る手を選びますし、「相手の石が弱いな」と感じたら攻める手を選びます。

でも、コンピュータは「感じる」ことはできないだろう! と鼻高々になっていたのです。
ところが、コンピュータは強くなっていきました。

将棋のソフトもめきめき腕を上げていき、羽生善治さんが何年か前に話した「将棋は、人間がコンピュータに負ける日がくる」という言葉が現実のものに。

今年、プロ棋士がコンピュータに敗れた出来事は衝撃的でした。

そして囲碁のソフトも、画期的に強くなりました。

今年、プロ棋士の石田芳夫九段(2)を相手に、4子局(ハンディキャップとして、はじめに黒石を4つ置いてから始める対局)で一勝一敗という互角の戦績。

アマチュアの五段ぐらいの腕前でしょうか。
これまでのアマ初段から一気に「四段」も強くなったわけです。

その理由は、新たにモンテカルロ法というプログラムを組み込んだことにあるようです。

「モンテカルロ法」がどういうものかというと、これまたレドモンド九段の解説によると「最善手を探すというよりは、終局(対局の終わり)までの参考図を無数につくって、勝率のよい手を選ぶ」というやり方で、「これまでもモンテカルロに近い発想はあったのですが、記憶能力・計算能力上、コンピュータが無理だった」のだそうです。

では、この先、ついに人間がコンピュータに負ける日はくるのでしょうか。

コンピュータソフトの制作現場の方々は「あと10年でその日は来るでしょう」と余裕の表情で語られていました。

レドモンド九段は「この20年、コンピュータそのものの伸び方はものすごくて、囲碁の5級から五段の差以上に伸びている気がします。今から20年経ったら、想像もできないコンピュータというものがある。だから人間は負けちゃうんじゃないかと思う。わからないことを想像してもわからないのだけど(笑)」とのこと。

人間応援団としては、少々不安な気持ちにさせられます。


コンピュータの囲碁では“感動”できない

でもそもそも、コンピュータが囲碁で人間に勝つかどうか、ということに、私はさほど興味がないかもしれない、と今気がつきました。
なぜなら……

第一に、私は個人的には「人間はコンピュータに負けない」と思っています。
記憶能力と計算能力だけでは囲碁は勝てない、と思っているからです。

今年93歳になられる杉内雅男九段(3)は、今も現役のプロ棋士として活躍されています。

囲碁界最高峰のタイトル「棋聖」戦では、棋士全員参加の予選を勝ち上がった12人が最後に「リーグ戦」を行って挑戦者を決定するのですが、12人中、今年は50代が4人もいます。

もし囲碁が、記憶と計算が全てのゲームなら、10代、20代の棋士に50代の棋士が勝てるものではないでしょう。

また、仮に一局コンピュータに負けたとしても、人間はすぐにコンピュータの弱点を研究し、癖を見抜きますので、次に対戦するときには負かすことでしょう。

だから、突き詰めれば、コンピュータは一局しか通用しないのではないかと思われます。


第二に、対局の内容に関心が持てないからです。

ハッ目とさせられたり、感動させられるような手をコンピュータが打つとは(偏見かもしれませんが)思えません。

いずれ、小説を書くコンピュータが出来上がったときに、その小説を興味本位で一回は読むかもしれませんが、おそらく二回は読まないと思うのと同じです。

さて、とはいうものの、プロ棋士たちはコンピュータに負けるわけにはいかず、中には戦々恐々とされている方もいるかもしれません。
でも、頼もしいエピソードがあります。

今年、19路×19路の碁盤での対戦の他に、入門指導などでよく使う9路×9路の碁盤でも、プロ棋士とコンピュータの対戦がありました。

碁盤が狭いわけですから、人間に不利なのは明らか。
対戦前は99%コンピュータが勝つ」と言われました。

でも、大橋拓文六段(4)ら若手棋士は、コンピュータの弱点・癖を研究し、見事に負かしたのです。

このことが、今年のタイトル戦の夕食の席で話題になったとき、張栩(チョウ・ウ)九段(5)(元五冠王。今年、井山裕太さん(6)に棋聖位を奪われるまでの第一人者)は、イタズラっぽい自信に満ちた笑みを浮かべながら、こう話しました。

「かりに99%負けると言われても、1%勝つ可能性があれば、人間はその1%に100%を投じることができる。だから、99などという数字は何の意味もなさない」。

人間の能力は、それを信じる者によって最大限に活かされるのだろうなと、心強く思わされた張栩さんのコメントでした。



位置情報登場棋士をご紹介します!
登場順。各氏の正式なプロフィールは、日本棋院のHPをご覧ください!

(1)マイケル・レドモンド九段
1963年、アメリカ、カリフォルニア州サンタバーバラ出身。
当時はインターネット対局などなかったので「このままアメリカにいたら、(自分より強い)囲碁の対戦相手がいなくなる」と、子供心に危機感を覚えて14歳で来日。2000年に、史上初めての「青い目の九段」に昇段。日本語は、内弟子(師匠の家に住みながら修業をする弟子)時代に、師匠のお母様から習い覚えました。そのため、古風な言い回しを自在にあやつり、「日本人より美しい日本語を話す」棋士としても有名。

(2)石田芳夫九段
1948年、愛知県出身。史上最年少、22歳で日本の三大タイトルの一つ「本因坊」を獲得。以降五連覇を達成。その他にも数々のタイトル歴があり。60歳から名誉本因坊資格により二十四世本因坊秀芳を名乗っています。
全盛期は計算力にすぐれ「コンピュータ」の異名は囲碁界では有名。
最近はわかりやすく辛辣な「名解説者」としての評価も高く、終盤に入る頃には「どちらが何目半勝つ」と言い当てるコンピュータぶりは健在。
歌が上手く、レコードを出したことも。

(3)杉内雅男九段
1920年(大正9年)、宮崎県出身。夫人の杉内寿子八段とそろって現役棋士。実績もさることながら、囲碁への真摯な態度、居ずまい、お顔立ちもあいまって、棋士たちからは「神様」と敬愛されています。

(4)大橋拓文六段
1984年、東京都出身。ピアノがプロ並みの腕前。
音楽好きのご両親の影響からか、3歳のときに「ピアノを習いたい」と頼んだとか。棋士の道を選びましたが、ピアノは弾き続け、「最近はバッハの良さがわかってきた」とのこと。新宿の某レストランに依頼されてときどき演奏しています。詰碁(囲碁の問題)づくりも得意で、「武光徹の曲を聴いていたときに、でっかい詰碁がひらめいた」りするそうです。

(5)張栩九段
1980年、台湾台北市出身。4年前に史上初の五冠達成。3年前に史上2人目のグランドスラム(七大タイトルを一度は獲得)を達成。
ある会場で、「一日にどのぐらい囲碁の勉強をするのですか?」という質問に「28時間」と答えて話題になりました。ご本人は、普通に答えてもつまらないと思い、「え? それはどういう意味ですか?」と興味を持ってもらう作戦だったそうですが「会場がシーンとしてしまって、困った」と笑っていました。
奥が深くウィットに富んだ明言は数知れず。少しずつご紹介したいです。

(6)井山裕太五冠
1989年(平成元年)、大阪府出身。
昨年結婚した将棋の棋士、室田伊緒初段とは、生年月日が同じ! お二人の誕生日に入籍されました。今年史上初の六冠の偉業を達成。新聞やテレビでも大きく報道されました。
現在は「碁聖」戦のタイトルマッチ五番勝負の最中。井山碁聖は1勝2敗と追い込まれています。第4局は8月9日(金)。どうなるでしょう?! 
井山さんといえば、師匠の石井邦生九段に、プロになる前にネット対局で千局も打ってもらったことでも有名(師匠は弟子とは直接対局しないのが囲碁界の常識でした)。その石井九段は最近「井山さんに千局も打ってもらったのに、どうして石井さんは強くならなかったんだろうねえ」と冷やかされているそうです。


ひらめき今年から日本棋院(公益財団法人。日本の囲碁を代表する団体)では、プロ棋士とコンピュータ囲碁との公式定期戦 「電聖戦」を開催しています。
興味のある方はぜひチェックしてみてください。
日本棋院HP:http://www.nihonkiin.or.jp/news/2012/11/1_18.html


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集英社インターナショナル好評既刊
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■『わが天才棋士・井山裕太』(石井邦生・著)
師匠がみた天才棋士の素顔と成長の記録
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posted by si at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大橋はコンピューターの手を暗記しただけ


コンピューターが本気を出せば人間は勝てない

囲碁は計算のゲーム

じじいには無理

Posted by ざんねん丸 at 2014年09月18日 20:28
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